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第1章
あたしは今日、夜逃げする。
今までの人生を捨て去り、新しい世界へ飛び込むのだ。
でも、したくてするんじゃない。父さんの遺言だから、仕方がない。
何度も自分に言い聞かせた。これはしょうがないことなんだ。
あたしは大きなカバンに身の回りのものをボスボスっと詰め込んだ。
まだ16歳なのに、未来には夢も希望もないなんて。
あきらめつつも、自分を憐み、無気力に作業を続ける。
生活に必要なものはすべて用意してあるって謎の手紙に書いてあったけど、さすがに手ぶらで行くわけにはいかない。だって、この家には2度と戻って来られないのだから。
ふっと、家の中を見回した。生まれてからずっと住んでいた家。小さいときに亡くなった母さんの記憶はないけど、この間まで一緒だった父さんとの思い出は、ここに山ほどある。
荷造りの手が止まり、また涙が溢れそうになった。
父さんがいてくれたら・・・。
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