第1章

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翌日は普段どおり、学校に行くことにした。 せっかくできた高校の友達と心の中でお別れをしたかったし、何よりも、通学時の電車で会う、大学生らしい彼を最後に一目、見ておきたかったから。 彼とは知り合いでもなんでもない。あるとき、電車が大きく揺れて、立っていたあたしは、隙間なく座る乗客のいる座席のほうへ倒れかけたことがあった。それを力強く抱きかかえて支えてくれたのが、彼だった。 「大丈夫?」 そう言ってさわやかな笑顔を向けた彼に、あたしはフォーリンラブしたのだった。 次の日から意識し始めたところ、彼は毎日同じ時間の同じ車両に乗っていることがわかった。 座席の前に立ち、いつも難しそうな分厚い本を読んでいる彼は、長身で細身ではあるが、何かスポーツでもやっていそうな芯のある姿勢で立っている。 別にあたしはイケメン好きではないけど、彼はどこからどう見てもかっこいい人で、あの、人懐こい笑顔が、本を読んでいるときのクールな彼とはまた違う一面を思わせ、惹かれずにはいられなかった。 そんなあたしには全く気がついていない彼は、あたしにとって最後の日も、いつものように重そうな本を片手で軽々持ち、読書にふけっているようだった。 あたしのほのかな恋よ、さようなら。 あたしは厳しい世界へと旅立ちます。 心の中でそう告げたあたしは、青春というものに別れを告げたのだった。 そして、今。 荷物二つを脇に置き、真っ暗な玄関に正座して、性根を据えた。 さあ、どこからでもかかってこい!
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