冬、夏。

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大抵ありがちなその不適合者は、社会でアウトローだ。いや、アウトローになっていくべきしてなる。けれど、そんな不適合なオレが、今日、大学生までまともでいられたのは、中学時代から、『オレの世界』を拒絶しなかった彼女がいたからに他ならない。彼女といってただの友人なのだが。  秋月沙織(あきづきさおり)、中学時代に知り合った女子で、彼女も、変わった、といえば変わった性質の持ち主であったのかもしれないが。けれど、オレと断定的に違ったのは、彼女は社会を拒絶しない、ってことで。だけど、それでもオレという変わった世界にも目を向けてくれる、そんな人生でも稀な異性であったのだ。  オレは芸術系の大学に通っていて、秋月も同じ大学に通っている。中学時代に、美術部で出合った流れと、それからの進路の方向が似ていたためであるが。最も、オレは絵をイメージして描いたり、物語を書くことが好きであったが、彼女は男らしく、彫刻などの立体造形を好んでいた。異性として付き合ったことはない、けれど、大学近くのマンションの部屋を隣り合わせで住む、という、はたから見ればどう見ても付き合っていて、気味の悪いくらいラブラブに見えたかもしれない。それでも、彼女の周りの友人たちが彼女を変な目でみなかったのは、ひとえに、彼女の明るく、さっぱりした人柄と、馬鹿正直な性格の素直さゆえだろうと思った。  昔、同じ大学と、大学のマンションの部屋位置が確定した時、さすがの秋月もオレを異性と意識しないと失礼だと思ったのか、こんなことを言ったことを思い出す。 「ねえ、私と、付き合ってみる?なんちゃって」  冗談めいた言い方で笑って見せた彼女の顔を、いまだに忘れることはできない。  付き合ってなどいなかった、けれど、オレを理解し、近くにいて、拒絶しない、形容すると、とてもやさしい子だった。でもそれ以上に、自分を理解してくれる異性であったことは、男に生まれたからには、嬉しいものであるのだ。
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