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04 動き出す
ある日、オレはいつもの缶コーヒーを購入しに、作業スペースを離れた。
季節は夏、蓮見綾香とはたまにマンションですれ違った時に会釈を交わす程度で、それ以上にはなにもないまま、夏を迎えた。蓮見綾香は秋月に容姿は非常に似ていたが、何度も見る内に差異を感じていた。蓮見綾香は秋月と違って、他人に対してはそれほど愛想はよくない。また、服装の趣味も秋月とは違って実に渋めの色が多い。そんな誤差を意識し始めた時、オレは蓮見綾香と秋月を重ねてみるのを止めて、そして、蓮見綾香を気にすることを和らげた。
そんなやり取りすらほとんどなかった蓮見綾香が、オレの作業スペースで立ち止まっているところを見て、驚きで、声が出なかった。
同じ大学の後輩、けれど、接点などなにもない彼女が、何故ここにいて、オレの絵を見ている?いや、見ているそれは、秋月を描いた、あの絵だった。
無言で、オレは自分の作業スペースへと戻る。本当は見なかったことにしてどこかで時間を潰していればよかったものを、全く、思考が動いてなかったのだ。
気配を背後で感じたのか、ぱっと蓮見綾香が後ろを振り返る。ロングのふわりとした髪の毛が揺らいで、その瞬間、ふりかえった横顔が、秋月と重なった。
「あの、その、勝手に見てしまって、ごめんなさい……」
オレを見て驚いた顔をした彼女は、突如そんな謝罪をした。
「その、二年生からは大きな作業スペースがもらえるって、それでちょっと友達と一緒に見学に来てたんです……」
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