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「ふゆち、お酒!!」
「ふゆちって何や。それにな、お好み焼き屋来てお酒ばっかり飲みなや」
「だって・・・・・・飲みたいんだもん!!」
春田亜季奈は店員の冬川奈津帆に空のコップを突き出した。
「ふゆち! 早くちょうだい!!」
「せやからふゆちってなんなんやて」
奈津帆は焼きそばを焼きながら、亜季奈にふゆちという言葉の意味を聞き返す。
「店員さんの名前、冬川だから、ふゆち」
亜季奈が奈津帆の左胸につけられた名札を指さして言う。
「変すぎるやろ。初対面の人間に言うセリフか?」
奈津帆と亜季奈は今日が初対面。
なのに何故か亜季奈は奈津帆に対して馴れ馴れしい。
「ふゆち、お酒!」
亜季奈はそう言うと奈津帆が空のコップに注いでくれたビールを一気に飲み干す。
「私ね、仕事でミスしちゃったんだ」
亜季奈の呟きに、奈津帆は焼きそばを焼く手を止めた。
「やっちゃった・・・・・・って感じ」
「しゃーないわ」
亜季奈を一瞥すると奈津帆は再び手を動かす。
「ミスは誰にでもあるんやわ。そんなんでいちいち落ち込んでたら、体がいくつあっても足りんで」
「分かるけど・・・・・・」
奈津帆の言葉が正しいことは亜季奈自身が良くわかっていた。
「次から同じことをせんかったらえーねん」
奈津帆の言葉の一つ一つが亜季奈の心に突き刺さる。
「いらっしゃい~」
奈津帆が急に言葉のテンションを変え、入ってきたお客に挨拶する。
「そちらどうぞ」
奈津帆が案内したのは亜季奈の右隣の席。
「何しましょ?」
お客の目の前にお冷とおしぼりを置きながら、奈津帆が聞く。
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