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「お好み焼きを」
その人物はスーツを着こなしていて爽やかな男の声で注文を入れた。
「はーい」
奈津帆は亜季奈を気にしながらも注文のお好み焼きを作り始める。
男がスマートフォンを取り出しなにか操作をしていたが、終わったのかカウンターの上に置く。
「ふゆち、帰るわ」
亜季奈がカウンターの上のスマートフォンを取り、立ち上がる。
「気ぃつけて帰りや」
奈津帆の言葉に見送られ、亜季奈は出ていった。
「あれっ?」
そんな声が聞こえたのは、奈津帆がお好み焼きをひっくり返した時だった。
見ればお好み焼きを注文した男がスマートフォンを見つめている。
「どうしました?」
気になった奈津帆は彼に尋ねる。
「あぁ、スマホが何か操作出来なくなって」
彼の言葉に奈津帆は何かを思い出した。
彼の隣にいた女性も確かカウンターの上にスマートフォンを置いていたのを。
「隣にいたお客さん、間違えて持っていってもたんやな」
「隣の人、ですか・・・・・・」
奈津帆の言葉に男はため息をつく。
ダメージが相当あったようだ。
「常連さんやったら来る時間が大体わかるんやけど、初めてのお客やからなぁ。まっ、携帯間違ってたら操作方法ちゃうから店戻ってくると思うけど」
「確かにそうですね」
少し元気が出たようだが、やはりまだまだ全部回復したとは言い難い。
「もし自分の携帯番号思い出せるなら、今電話してみぃや」
奈津帆は充電器の上に置かれた固定電話の子機を彼に渡す。
「ありがとうございます」
受け取った彼は何かを考えているようだったが、さらりと一言。
「電話番号、忘れました」
「なんでやねん!!」
奈津帆の豪快なツッコミが店内に響きわたった。
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