第1章

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「お好み焼きを」  その人物はスーツを着こなしていて爽やかな男の声で注文を入れた。 「はーい」  奈津帆は亜季奈を気にしながらも注文のお好み焼きを作り始める。  男がスマートフォンを取り出しなにか操作をしていたが、終わったのかカウンターの上に置く。 「ふゆち、帰るわ」  亜季奈がカウンターの上のスマートフォンを取り、立ち上がる。 「気ぃつけて帰りや」  奈津帆の言葉に見送られ、亜季奈は出ていった。 「あれっ?」  そんな声が聞こえたのは、奈津帆がお好み焼きをひっくり返した時だった。  見ればお好み焼きを注文した男がスマートフォンを見つめている。 「どうしました?」  気になった奈津帆は彼に尋ねる。 「あぁ、スマホが何か操作出来なくなって」  彼の言葉に奈津帆は何かを思い出した。  彼の隣にいた女性も確かカウンターの上にスマートフォンを置いていたのを。 「隣にいたお客さん、間違えて持っていってもたんやな」 「隣の人、ですか・・・・・・」  奈津帆の言葉に男はため息をつく。  ダメージが相当あったようだ。 「常連さんやったら来る時間が大体わかるんやけど、初めてのお客やからなぁ。まっ、携帯間違ってたら操作方法ちゃうから店戻ってくると思うけど」 「確かにそうですね」  少し元気が出たようだが、やはりまだまだ全部回復したとは言い難い。 「もし自分の携帯番号思い出せるなら、今電話してみぃや」  奈津帆は充電器の上に置かれた固定電話の子機を彼に渡す。 「ありがとうございます」  受け取った彼は何かを考えているようだったが、さらりと一言。 「電話番号、忘れました」 「なんでやねん!!」  奈津帆の豪快なツッコミが店内に響きわたった。
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