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磯原琉一朗は一人部屋の中でため息をついていた。
まさかスマートフォンを間違って持っていかれるなんて、思いもしなかったのだ。
お好み焼き屋の店員は間違ったことに気づいたら戻ってきてくれるみたいな話をしていたけど、結局その人は戻ってこなかった。
緑色の通知ランプがスマートフォンの下部で点滅しているが、勝手に触ってはいけない精神が働き、触ることができない。
今日もお好み焼き屋に行ってみよう。
もしかしたらその人が来るかもしれない。
間違えた方も自分のスマートフォンじゃないから困惑してるかもしれない。
そんなことを思いながら、パンにかぶりつく。
冬川奈津帆は百貨店に来ていた。
ここで友達と待ち合わせし、お昼を食べるのだ。
友達の名前は八月一日 真夏。
冗談のようなフルネームだが立派な本名で(ほずみ まなつ)と読む。
関西弁を話す唯一の友達である。
奈津帆が迷っていると周りにある何かで頭を叩く怖い人だが、彼女以外の人間には一切したことがなく、また関西弁を話すのも彼女の前だけ。
つまり普段は標準語を話しているのだ。
待ち合わせ場所に先に来ていた奈津帆は、時間通りに現れた真夏に少しびっくりした。
「久しぶ・・・・・・、なんかあったんか?」
「ん? なんか変か?」
真夏の返答にさらに驚きを増す奈津帆。
「まなっちゃん、スカート履いてる!!」
それは初めての光景だったのだ。
スカート履いてる真夏なんて見たことがない。
生足を出しているなんて、寒いからやらない筈なのに。
「アカンか?」
「似合ってる、けど」
「けどなんや?」
「なんでスカート履いとん?」
奈津帆が真夏に是非とも聞きたい質問だった。
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