第1章

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「相変わらず上手いね」  カウンターに座る真夏は奈津帆のお好み焼きを作る手さばきを見て、感心している。 「商売やからな」  奈津帆にしては珍しく普通に返したが、真夏は彼女の手さばきを見るのに必死なため、何も言わなかった。 「いらっしゃい~」 「こんばんわ」  店内に入ってきたのは亜季奈。 「もう一人の人、まだ来てないみたいやねん」  モダン焼きを作りながら、奈津帆が言った。 「そうなんですか」  亜季奈は真夏の隣に座り、荷物を足元に置く。 「こーへんな」  あれから二時間近くが経った。。  奈津帆は相変わらず料理を作っている。  真夏は用事があるからと先に帰ってしまった。  亜季奈は疲れきってカウンターにうつ伏して寝息を立てている。  琉一朗は疲れきって公園のベンチに座っていた。  やっぱり店の名前だけで探すのは骨が折れる。 「ハアハア、ど、どこなんだ」  肩で息をしつつ、辺りを見渡してみる。  トントン。  誰かに体を揺さぶられる。 「こんなとこで寝てたら風邪ひきますよ」  この声はもしかして、さっきの。  瞬間、琉一朗は目を見開いた。 「お店、見つかりましたか?」  さっきの女性だ。  藁にもすがる思いで聞いてみる。 「言ってたお店がわからないんです」 「この近くなんですけど、えっと」  女性は携帯電話を取り出しディスプレイを見て、 「もうでも閉店時間ですね」  と優しい声で言う。  いつの間にか閉店時間になっていたのだ。 「そんな・・・・・・」  ガックリと肩を落とす。 「お家まで送りますね」  女性の声は優しく琉一朗を包み込んだ。
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