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とりあえず、「ふんふん、大変だね」と適当に言って相槌を打つ。
ただ、僕が知りたいのは少女の胃袋事情とかではない。
できればもっと具体的なことを教えてもらいたいんだけどなぁ。
結局、それ以上彼女は僕に一切の情報を語らずオニギリを食べ終えた。
オニギリの包装を僕に手渡し立ち上がる少女。
「オニギリ、ありがとう。でも、今日のことは忘れなさい。
その方が身のためよ。誰かに話すこともしない方がいいわ。
頭の病気を疑われてしまうから」
てきぱきとした口調でそう言われ、僕は二の句が継げないまま頷いてしまう。
基本、僕は本能的に自分より強い人間には卑屈に出てしまう癖があった。
恐らく彼女は僕より強い。
そしてもっと言えば、僕より弱い人間など僕の周りにはクラスメートの園芸部員、園山くらいしかいないのである。
ポニーテールをほどき、彼女は悠然と去って行った。
僕はその後ろ姿をぼんやり見送った。
見えなくなるまで、いつまでも見ていた。
後に残ったのは真っ二つにされた金属バットの残骸だけだった。
家に帰ると、僕は真っ先に部屋のベッドに倒れ込んだ。
外はもう、空が白くなってきていた。
バイクのやかましい音が近くで聞こえる。
隣に住むルミナも彼氏に送られて帰ってきたようだった。
ドュルンドュルンというバイクのエンジン音が朝焼けに照らされていく住宅街に反響する。
その不愉快な音をバックミュージックに僕は寝た。
イライラしたけど頑張って目をつぶった。
カップラーメンは、また明日食べることにしよう。
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