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目標地点へ行きつくまでの経路を模索した。
今のところ換気ダクトを地道に伝ってよじ登っていくのがベターだな。
壁のタイルをロッククライミングの要領で指をひっかけながら登って行くという手もあるが。
いや、でもこれは無理。
僕にはできない。
となればやはり、換気ダクトを伝っていく方法が最善策だろうか。
「いや、まてよ」
僕はアパートの近くに生える街路樹を見上げた。
周囲を見回し、誰もいないことを確認する。
人の気配は皆無。やるなら、今しかない。
僕はアパートの傍に佇んでいる一本の木にしがみついた。
こう見えて木登りは結構得意なのだ。
その昔、ルミナにもすごいと褒められた実績がある。
今となっては何も役に立たないスキルだが。
目指す部屋は二階の真ん中。灯は消えているので家主は寝静まっているだろう。
しかし、あまり大きな音を立てると目を覚ましてしまう可能性がある。
そうなればジ・エンドだ。
僕は忍びのごとき素早さで幹を這い上がり、ベランダと同じ高さまで到達する。
木にしがみついたまま秘宝黒下着までの距離を見積もった。
およそ二、三メートルといったところか……。
正直、この場所この体勢から飛び移れるか、かなり微妙な間合いだった。
しかし、僕に迷いはない。
僕は飛ぶ。宝石のように輝く下着を求めて。
栄光をこの手に収めるために。
「ハアッ!」
下半身のバネを最大限に駆使し僕は飛翔した。
ムササビのように体を広げ、夜空の下で飛んだ。
弾けろ、シナプスゥ!
もちろん、あっという間に僕の体は重力の餌食となり墜落を開始する。
しかしながら、そう易々と落ちていくわけにはいかないのだ。
藁にもすがる思いでベランダの手すりに右手を突き出す。
僕の腕はゴムのようには伸びないけれど。
それでも。少しでも近づきたくて。
指先を。全身の関節を限界まで伸ばして悪あがきをする。
諦めなかったおかげか、僕の指先は奇跡的に手すりにひっかかった。
やったぞ! 右手一本でぶら下がりながら心の内で歓喜の声を上げる。
だが、ここからが正念場だ。
偶然届いた指先のおかげでなんとか地面との衝突は避けられたものの、ここから体全体を引き上げなくてはならない。
片手では全身を支えることは不可能なので、虚空を掴む左手も駆使し両手でぶら下がる。
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