第三章

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 翌日の早朝。  自転車を傍らに駐輪させ、体育座りをしながらレイちゃんのアパートの前で彼女を待ち伏せる僕がいた。  下着泥棒の次はストーカー。  着実に外道の道を踏み進んでいる十六歳の夏であった。  それはともかく。  かれこれ一時間近く張り込んでいるのだが、彼女が出てくる気配は一向にない。  昨夜のレイちゃんの発言から午前中に何か出かける用事があると推測できたので、こうして取り逃さないよう早起きしてきたのだが……。  おかげで今はものすごく眠い。  寝た時間も遅かったため、睡眠時間はほとんど取れていなかった。  寝不足で頭がガンガンするし、おまけに吐き気もしてきた。  まぶたはますます重さを増し、僕を安眠へ誘おうとする。  部屋のベッドが恋しくなってきた。  枕に顔を埋めてぐっすり寝たい……。  いや、僕は睡魔なんかには負けないぞ。  授業中は敗北しっぱなしだが。  それにしてもレイちゃんは全然出てこない。  もしかしてもう出かけてしまったのだろうか。  そうだとすれば、僕のこの頑張りは水泡に帰する。  考えだすと今こうして睡眠欲に耐えて粘っている自分が滑稽以外の何物でもないように思えてくる。  帰ろうかな。  いや、でもあと少し。  十分だけ。  それだけ待とう。そうしたら……。  僕は欠伸を一つ漏らした。 「……っ?」  首がガクンと落ち、目が覚める。  左手につけた腕時計で時刻を確認すると、なんと昼前にまで針が進んでいた。  どうやら知らぬ間に舟を漕いでいたらしい。  午前中とは異なり、気温も上昇していて周囲は茹だるような暑さに包まれていた。  強い日差しの下、太陽に照らされたアスファルトが熱い。  頭皮からしみ出す汗の粒が前髪を張りつかせ煩わしかった。  おかしな姿勢で寝ていたせいか節々も痛い。  はぁ……。  こんな時間ではもうレイちゃんはとっくにどっかへ行ってしまっているだろう。  それどころか寝ている間にアパートの前で居座る僕を軽蔑しきった眼で見ながら素通りしていたかもしれない。  喉も乾いているし、踏んだり蹴ったりだった。  帰ろう……。  しょげ返りながら立ち上がり、地面に触れていたジーパンの尻部分の埃を払う。  そうして何気なく前方に視線をやる。  アパートの入り口から出てくるレイちゃんの姿がそこにはあった。
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