第三章

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 どういう問題なのだろう。  菓子箱をトートバックへ詰め込むレイちゃんを見ながら僕は首を傾げた。  貰う物を貰ったら素早く僕と別れようとするレイちゃんの行動を予感し、僕は彼女を逃がさないために会話を途切れさせないよう質問する。 「レイちゃんはお昼ご飯もう食べた?」 「まだだけど」 「なら一緒に食べようよ。御馳走するから」 「結構よ。理由もないし」  また理由か。 「女の子にご飯を奢るのに理由が必要かな?」  考えるのが億劫だったので適当なことを言ってやった。  ちなみに斉藤曰く 『女と飯を食う時はどんな時でも男が金を払うんだ。  それができない甲斐性のない野郎は女と付き合う価値のない男さ。  戦う前から負けているんだよ』  ということらしい。  嘘くさいことこの上ないと思ったが、甲斐性云々はまあ一理あることもない。 「私、無闇に他人に借りを作りたくない主義だから」  レイちゃんは身持ちが固い子のようだった。  そして憶測だけど融通も利かなそうだ。 「まあいいじゃん。お話ししようよ、ハンバーガーでも食べながらさ」 「だからいいって言ってるでしょ。それに私、今お腹減ってないの」  と言った直後。  キュゥ、とレイちゃんの腹部から可愛らしく空腹を告げる音が鳴った。  僕はここぞとばかりに勝ち誇った笑みを浮かべた。  僕たちはレイちゃんのアパートの近くにあるファミレスに来ていた。 『ファーストフードは嫌よ。体に悪いもの』というレイちゃんの一声でそうなった。  実を言うとこのファミレス、学生が気楽に来るには少々値段が高い。  だが、親交を深めるにはやっぱり一緒に食事をとるのが一番いい。  同じ釜の飯を食った仲という言葉もあるし。  甲斐性の見せ所だと思って耐えることにしよう。 「鱈子スパゲッティとシーフードサラダ。それからレモンティー。食後にこのチョコレートパフェとショートケーキ」  淡々と店員のウェイトレスにデザートまでしっかり含めて注文を言うレイちゃん。  それにしても、奢りだからって、ちょっとくらいは金額を考慮しろよなぁ……。 「僕はドリアで……」  財布と相談すると自然、追いやられる形で僕が注文する品は低コストであることを強いられる。  宝くじでも当たんないかな……。 「そういえばレイちゃん、朝早くに用事があるんじゃなかったの?」
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