第三章

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「そ、それは……。  寝坊したわけじゃないのよ。  別に夜中に起こされて、あの後なかなか寝付けなかったとか、そういうことは一切ないんだからね!」  レイちゃんは早口でまくし立てる。 「というか、昨日から言いたかったんだけどレイちゃんって呼ぶのやめてよね」 「どうして?」 「気持ち悪いからよ」 「これは親しみを込めてるんだけど」 「よく知らない男の人から下の名前をちゃん付けで呼ばれるとか鳥肌が立つの」 「ごめん、レイちゃん」 「…………」  レイちゃんは何も言い返してこなかったが、一瞬、蔑んだ目になったように見えた。  錯覚だったと信じたい。  まあ、とりあえず掴みはこのくらいにしてそろそろ本題に切り込むことにしよう。 「でさぁ、こないだの夜のこと。アレって結局何なわけ?」 「何って何が?」 「だから、あの日本刀を持ったやつは何者で、君はどうして戦っていたのかとか。大体そこら辺の話」 「ふん、どうやらお土産を持ってきたりご飯を奢ったりして私の機嫌をとるのはそれが理由みたいね」  レイちゃんはコップに手を伸ばし、水を飲む。  そして続けてこう言った。 「嫌よ。だってあなたには関係ないじゃない」 「つれないこと言うなよ。僕ら、共に死線を潜り抜けた仲じゃないか」 「共にって。あなた、何もしてなかったでしょ」 「オニギリあげただろ。それに君が気絶している間、隣で見守っていたのは僕だぜ」  ここぞとばかりに恩を売ったことをアピールする。 「どうして気持ち悪い人って基本馴れ馴れしいのかしら」  辟易したようにレイちゃんは言う。気持ち悪い人扱いとは心外である。 「僕は馴れ馴れしいわけじゃないよ。ただ、こう、君に対して非常に興奮しているだけでね?」 「へえ、あなたは真性の変態なのね」  レイちゃんが警戒心をあらわにした表情で胸元をギュッと押さえた。  こいつ早くなんとかしないと、とか思われてそう。 「……まあいいわ。  御馳走してもらうわけだし、トークのサービスくらいしてあげる。  もっとも、突飛な話過ぎるから信じないと思うけど。  それ以前に……笑ったら許さないから」  経緯はどうあれ、打ち明けてくれる気になったのは何よりの成果である。  代償にレイちゃんの評価する僕の人間性が下劣なものに成り下がったわけだが。  何はともあれ、レイちゃんはつらつら語り始めた。
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