第三章

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「あいつと初めて会ったのは一ヵ月前だったわ。  その日、私は叔父さんの家を訪ねていたの。  叔父さんにはよく遊んでもらったりしていたから幼い頃の私はよく懐いていたわ。  ただ叔父さんは何年も前に亡くなっていてね。  だからその日は叔父さんの子供、つまり私のイトコに会いに行ったというのが正しいかしら。  ……まあ、今はあんまり関係ないからそれは脇に置いておいて。  叔父さんの家についた私はまずお線香を焚くために叔父さんの仏壇がある部屋に入ったの。  そうしたらあのローブを着た女がそこにいたわけ」 「え、あれ女の子だったの?」 「ちょっと、どうでもいいところに食いつかないでよ。  ……最初はイトコか叔母さんの知り合いなのかなと思ったんだけど、どうにも雰囲気が妙だったのよね。  おかしいなと思っていたらあいつは刀掛台に飾ってある日本刀を手に取ったの。  それで私が声をかけたらあいつはまるで感情がない能面みたいな顔でこっちを一瞥してから刀を持ったまま当然のように窓から外に出ようとしたわけ。  網戸も開きっぱなしになっていたから、きっと入ってきたのもその窓からだったんでしょうね」 「その部屋って何階にあったの?」 「二階よ。  叔父さんの家は二階建ての一軒家だから。  ってそんなことは気にするところじゃないでしょ。  さっきからつまらない質問して水を差すの止めてくれる?」  怒られてしまった……。  一体僕は何度彼女に叱られればよいのだろう。  レイちゃんがだんだん僕のオカンに見えてきた。 「レモンティーのお客様」  いつの間にか傍に来ていたウェイトレスがレイちゃんのレモンティーを運んできた。  ちなみに僕はドリンクを注文していない。  理由はもちろんお金がないからだ。 「どこまで話したかしら」  レモンティーを啜りながらレイちゃんが言った。 「ローブの女の子が窓から逃げようとしていたってところまでかな」 「ああ、そう。  そこよ。  でも、逃げようとしたって大人しく逃がすわけないじゃない?  だって泥棒よ。  だから私はとっ捕まえようとしたわ。  けれども、あいつはどういう手品を使ったのか分からないけど、いきなり眩い閃光を放って私の眼をくらませてその隙に逃げた」 「なんだか忍者かスパイみたいなやつだね」  僕のマヌケな感想をレイちゃんはスルーして続ける。
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