第三章

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「あなたの眼は腐っているわ。そして息も臭い」  酷い言われようだった。  僕が一体何をしたというのだ!  ええ、はい、普通に下着泥棒ですよね。  すいません。 「まあ、息は想像だけど。でも瞳が淀んでいる人間はきっと口の匂いもドブ川のように臭いに決まっているわ」  ああ、眼に関しては嘘じゃないんですね……。 「そこまで臭くないよ!  っていうか目も腐ってないし。  そーいう決めつけをするのはよくないな。  実際嗅いでみてから言った方がいいんじゃないかな」 「嫌よ。  臭いもの。  それにその発言はセクハラ」 「…………」  これ以上は何を言っても堂々巡りを繰り返すだけと悟ったのであきらめることにした。  でも臭くないよ。  そういえばレイちゃんの口癖は『嫌よ』のようである。  何事も否定から入るとは、彼女はなかなかクリティカルな思考を持った思慮深いレディーなのかもしれない。 「それにこれは私の、私個人の戦いだから。  出来るだけ他の人は巻き込みたくないの。  一緒に戦ってくれるというあなたの熱意は評価するけど」  評価と表現するのか。  どうにもレイちゃんは上から物を言う傾向があるみたいだった。 「一緒に戦うわけじゃないよ。僕は手伝うだけ。サポートするだけだよ」 「だからそれがいらないの」 「でもレイちゃんはバットを使って戦っていたよね」 「だから何?」 「君はあの刀泥棒との戦いを有利に進めるために自らを武装した」 「そうよ」 「なら僕がレイちゃんの手助けをするのも似たようなものじゃないかな。有機物か無機物かの違いだけでさ」 「……こじつけよ、それは。意味分かんないし、論点が微妙にすり替わってるでしょ」 「そうかな?」  そう言われると確かにそんな気もしてくる。  だが、この理屈を正論であるかのようにして彼女を納得させないと協力者として採用してもらえない。 「とにかく、私は誰の手も借りないつも」 「ドリアのお客様」  僕は「はい」と小さく返事をする。  会話の流れを読まずに注文を運んできてくれたウェイトレスにとりあえず感謝だ。  あのままだったらきっと、もうつけ入る隙がないくらい丁重にお断りをされていただろうから。 「ああ、見てレイちゃん。ここのドリアのチーズのこんがり具合。なかなか秀逸だね」 「は……? 何を言いたいのか分からないんだけど」
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