蝉のいる季節

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「元気だっ…うぉい!? お、おま……なんという格好をしてんだ!?」  俺と、そう変わらない年のはずの短パン小僧は、一瞬固まった後に「とりあえず奥に行け」と、俺を部屋の中に押し込んでくる。  つか、勝手に入ってくるんじゃねぇ。それと、俺の今の格好に文句をつけるとは、いい度胸だ。 「これ? 暑いからしゃーないだろ」 「いやいやいや!? そういう問題じゃないからね!!? せめてパンツくらい穿こうよ! 粗末なものをぶら下げんなよ!!」 「…ほう、これのどこが粗末なものなんだ? 30字以内で説明してみろ」 「胸を張るんじゃねェェェ!!!!」  その後、口論は10分くらい続いたが、俺がパンツだけを身に着けるという妥協案を受け入れることで、とりあえずは収まった。 「びっくりしたわー…久々に遊びに来てみたら、全裸で出てくるんだもの。そのまま外に出ていたら、間違いなく逮捕ものだよ」  短パン小僧は、首に掛かったタオルで汗を拭きながら困ったように言っているが、そういうお前の方が見た目が痛いと思うのは、俺だけじゃないはずだ。  何で服装が、タンクトップと短パンの組み合わせなんだよ。それに… 「なんだよ、この網は」  短パン小僧の右手に装備していた長い棒は、どう見ても網だった。  それに、肩から下げている緑色のカゴも気になる。 「なぁ、お前なんでここに来たんだよ?」 「おぉっ、よくぞ聞いてくれた! 実は、今から虫捕りに行こうかと思っていたんで、誘お…だからパンツを脱ごうとすんじゃねぇ!」  予想通りの答えに呆れながら最後の1枚を外そうとする俺を、短パン小僧は必死に止めようとしてくる。  「虫捕りなんて下らねぇよ」という眼差しを向けるが、短パン小僧は少しも気付いていないようだ。 「こんなに暑い時は、虫捕りが1番だよ。山に行けば、それなりに涼し……だからパンツを脱…あ、ごめん。服を着ようとしていたのね」  何故か濡れ衣を着せられた俺は、短パン小僧を睨み付けながら部屋の隅にあったTシャツとジャージズボンを着、財布を持って外に出ようとする。  後ろから「どこに行くんだよ」という声が聞こえてきた気がするが、あえて無視することにした。
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