父の人差し指

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 私が付き合っている彼氏を紹介した時も、父は彼氏と二、三言交わした後、私に「いい人だな」と笑いかけてくれた。  私は、父に認めてもらえたことを喜びながら、父に抱き付く。  父は私の行動に驚いたのか、いつもよりも目を大きく見開いていたが、すぐにいつもの表情に戻った。  そして、その彼氏と結婚することが決まった時に来た、父からの手紙には「幸せになれ」と書かれてあるだけだった。  父と酒を飲み交わしたことのあった彼氏も「何か安心できる字だ」と言っていた。  私たちの子供が生まれた時も、初めての孫にはしゃぐ母の隣で、いつもの笑みを浮かべていた。 「ほらお父ちゃん、孫よ!」 「あぁ、可愛いな」 「可愛いわよね! あぁもう、何で孫って、こんなに可愛いのかしら!?」  そうして孫を抱き上げる母の隣で、父はただ孫の笑顔を見ているだけだった。  孫の面倒は、世話好きな母が専らやっていた――というより、父は殆どやらせてもらえなかった――。  そんな父も還暦を迎え、退職した後は、家で囲碁をするようになった。  相手は、いつも私の旦那。旦那も囲碁をやったことがあったようで、父と良い勝負をしていた。  そして囲碁をした後は、小学生になった孫からの弾丸トークに、いつもの表情をしつつも「そうか」と相槌を打っていた。 「お祖父ちゃん、指をぎゅってしたい!」 「……はい」 「ぎゅーっ! この指を握っていると、何かほっとするの!」 「そうか」  幼い時から、私を安心させてくれていた父の短い人差し指は、今では私の娘のお気に入りになっていた。  父と顔を合わせる度に「指を握りたい」と言ってくるものだから、父も慣れたようだ。
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