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―――もうすぐ飛び立つ。
空港の窓から真っ青な空を彩るように飛ぶ白い飛行機を眺めながら、僕はハァ…と長い溜め息をついた。
飛行機に乗ることは、僕の小さい頃からの夢だった。あんなに大きな鉄の塊が、いとも簡単に陸を離れて遠くへ行くのだ。
こんな夢のような乗り物が発明された時、当時の人々は何と思ったのだろうか。
かくいう僕も、その人々の中の1人だった。
乗ってみたいと思っていたが、切符を買えるだけのお金がない。仮に買えたとしても、周りの人が我先にと切符を買い込んでいたので、いつも売り切れ状態だった。
時代は遡るが、世界大戦の時は、軍の中でも選ばれた人だけが乗れるものだった。もちろん乗ったが最後、生きて帰ってくることは許されなかった。飛行機──その頃は戦闘機と呼ばれていた──に乗り、敵にそのまま体当たりして爆破させる。
そういった戦法で、日本は勝利を掴んでいった。操縦士の命さえも軽んじる日本の教育は今思うと、何て非道徳的だろう。何故、こんなに簡単に自分の命を捨てられるのかが分からなかった。
しかし、今目の前に君臨する飛行機を見ると、自分の命を捨てた操縦士の気持ちが分かるような気がした。
地面に足を着いて生きている人類にとって、大空は未知の世界であり憧れだった。
空の向こうには何があるのだろうか。
少しでも良いから空に近付いてみたい。
少しでも近付けたら────。
その想いは、いつしか人類が翼を持てるような方法を幾つも考え出させた。
だが、そんな想いを持つと同時に、人々は“空”という未知の世界に対して畏怖してもいたのかも知れない。
空に近付くと、どうなるのだろう。空という広大な世界に、ちっぽけな命を投げ出すとどうなるのだろう。
操縦士にとっても、空は未知の世界だったに違いない。操縦士達は日本の為にと謳っていたが、その中には“空”という世界の重みに耐え切れず、命を投げ出した人もいるのかも知れない。
イカロスは太陽に近付きすぎた為に、蝋で固めて作った翼を焼かれ、空を真っかさまに落ちていった────。
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