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◆
「ゆうちゃん、やっと手術を受けられるのよ! これで見えるようになるわ」
「手術?」
目の前にいる人――オカアサンという人らしい――から嬉しそうな声が聞こえてきた。
特に驚きもしなかった私は、そう聞きながら顔の大部分を覆っている包帯に手を触れた。さらり、と包帯の乾燥した感触が直に指に伝わる。
私は、小さい頃から視力が極端に弱かった。
ほんの少しの光なら感じ取れるが、それでも殆ど見えない。だから少し歩くだけで、本当に色んな所にぶつかっていた。
今回病院にいるのも、ちょっとした怪我をしたからで、オカアサンが言うには5針縫うぐらいだったという。
そんな私が、今度は目の手術を受けることになったようだ。
だが、見えないことは物心ついた頃からそうだったし、別に今更見えるようになりたいとは思わない。
単に「見える」ようになるというのが、どんな感じなのか分からなかったからでもある。
それでもオカアサンは、私に見えるようになってほしいと思っているようだった。
「手術は、いつやるの?」
「1週間後だって」
そんな会話を交わした1週間後のことだった。
私は手術を受けるために、専用のベッドに移された。
大掛かりな手術になるらしく、多数の足音が廊下に響いている。
手術を受けた後の視界が想像できなくて、少しの不安と大きな期待が胸を圧迫していた。
今までの、薄暗かった視界が変わるのかな?
そんなことをぼんやりと考えながら、私は消毒液の匂いが充満している部屋に運ばれていった。
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