つめたい邂逅

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「おめでとうございます。手術は成功しました」  男性特有の、低い声が私の耳に入ってくる。  目の前にいる――包帯を巻かれているから見えないが――センセイという人に、オカアサンは何度もお礼を言っている。 「ありがとうございます! ……ゆうちゃん、やっと見えるようになったのよ」  オカアサンの声が水っぽく感じられた。多分、泣いているのだろう。  「見える」ようになったというのが、どんな感じなのかは、まだ分からない。この包帯が取れた時に分かるのだろうと、呑気に考えていた。 「オカアサン、私が見えるようになって、嬉しい?」 「何を言っているの…嬉しいに決まっているじゃない!」  水っぽさが更に増えた。センセイが「良かったですね」と優しげな声で言う。  包帯が取れるようになるのには、早くても2週間はかかるという。  それまで、私は今まで通りの生活をするらしい。つまり2週間後には、この生活ともお別れだということだ。  それなのに嬉しいという感情は、あまり湧かなかった。  きっとそれは、まだ実感が湧いていないせいなのだと、自分に言い聞かせる。オカアサンからは、浮きだった気持ちが感じ取れた。  そして、2週間を少し過ぎた辺りに、包帯が取れる日が来た。  理由は分からないが、少しドキドキしている自分がいた。  「では、外しますよ」というセンセイの声と共に、私の顔から包帯が解かれていく。  しゅるしゅると包帯の擦れる音がした。  そして圧迫感が徐々に薄れていき、最後には完全になくなった。目蓋は閉じられたままだ。 「ユウミさん、ゆっくり目を開いてください」  センセイの指示に従って、目蓋に力を入れる。  目を開くといった動作は、今まで数えるくらいしかやっていなかったのだが、目の開き方は身体が覚えているようだった。  特に意識することもなく、目蓋が上がっていく。少しずつ視界が明るくなり、様々な色が入り交じっていく。  そして、目が完全に開かれた時に、私の目に飛び込んできたのは、数えきれないほどの色の大群だった。  アオとかキイロとかの名前は知っているが、どの色がどういう名前なのかが頭の中で一致しない。  あの同じ色が広がっているものは、どういう名前の色なのだろう。  そんなことを考えながら、私は窓から外を見ていた。
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