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その日から、私は時間があれば、窓からアオく広がる空――ソラは、こういう字で表すらしい――を見るようになった。
時間によってアカくなったり、クロくなったりする空というものは、とても透き通っているように思えた。
その中に飛び込めたら、どんなに気持ちが良いのだろう。
そんなことを考えると、何故か胸が熱くなる。
最近、空の色に似たものを見つけた。水だ。
目が不自由だった時に、よくプールの中で遊んでいた覚えがあるが、その時に感じる、身体全体を包み込むような感触を色で表すと、きっとこんな色なのだ。
空が限りなく透き通っているのなら、きっとたくさんの水が浮かんでいるのだろう。それを想像すると、ますます飛び込みたくなった。
「空の中に飛び込める訳ないでしょ」
そんな私の様子を見て、オカアサンは笑っていた。
だけど、私は思うの。これだけ願っていれば、空もきっと私を受け入れてくれるって。
そう反論すると、オカアサンは尚更笑う。
もう、何で笑うの。良いよ、私が実際に飛び込んでみせるから。
そう言って、目を丸くするオカアサンを突き飛ばして、私は階段を登る。
出来るだけ高い方が、空も受け入れやすいだろう。そう思った私は、屋上を選んだ。
ハイイロの扉を開けると、目の前には限りなく広がるアオがあった。
少し進むと、風が私の背中を押していく。
屋上の縁に立つと、背中だけを押していた風が、今度は空の方に向かって吹いてくる。
ほら、空も私を誘っているんだ。
それが堪らなく嬉しくて、私は両手を広げて屋上から空に向かって飛んだ。
その瞬間に聞こえた、誰かの叫び声――私が出したのかもしれない――は、いつまでも空に木霊(コダマ)していた。
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