空-チチ-を想ふ

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 僕には父がいない。父は偉大な操縦士だったと聞いた。  初めて空の世界に飛び込んだ父は、果たして最後まで耐え切れたのだろうか。いや、耐え切れたに違いない。  だって僕は、操縦士の息子だもの。息子が未知の世界に対して興奮しているように、父も興奮しながら操縦舵を握っていたに違いない。  記憶の中で生きている父はいつも優しく、よく紙飛行機を作ってくれていた。  そんな父が戦死したと聞いた時、母は泣き崩れた。泣き崩れる母の隣で、幼かった僕はひたすら空を見上げていた。暗いはずの空は、紅く染まっていた。  それから僕は、空に生きた父の面影を探すように空を見上げるのが習慣になった。  幼かった頃の僕は、偉大な父に勝てないと子供心に感じていたのだろう。空から父を感じ、その度に「いつか追い抜いてやるからな」と呟いていた。  そんな僕が家を離れて、僕も知らないような遠いところへ行くことになった。故に、人生初の飛行機デビューでもある。  いつかの父のように、僕も空の世界に飛び込む。  その時、僕はどう感じるのだろう。  怖いと思う?  懐かしいと思う?  それは、飛行機に乗ってみるまでのお楽しみだ。  飛行機が離陸する時に感じる、独特の浮遊感を身に受けながら、僕は再び長い溜め息をついた。  ―――もうすぐ飛び立つ。
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