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「綺麗じゃない?」
誰もいない河原で天体観測をしていたナツメが呟いた。
「もちろん、自分の力で瞬いていない星もあるけど。ほら、月は太陽の光が当たっているから輝いているの。そうやって周りの力を借りて、やっと輝ける人だっているのよ」
僕の方を振り返るのと同時に、ぎぃと車椅子が軋む音がする。
ナツメは、そんなこともお構いなしに捲(マク)し立てる。
「確かに自分の力で輝くのは、素敵なことだと思うわ。でもね、自分の力だけでは輝けない時だってあるの。自分だけではどうしようもない時だってある」
カコンと車椅子のブレーキを外して、両手で器用にタイヤを操って僕の方にUターンしてくる。
そんな時に、ナツメの方に歩いていこうとすると「私が行くから待ってて」と怒られてしまうのだった。
「その時は、他の人からほんの少しだけ力を借りるの。貰うんじゃなくて借りる」
「“貰う”と“借りる”の違いってあるのか?」
思わず聞き返してしまう。
ナツメは、いつも似たような言葉を並べて話すので、時々分かりにくくなる。そんな時は、いつも聞き返す。
わかった振りをしながら話を進めるのは、彼女にとっても失礼だと思っていたからだ。
「あるよ」
さらりと砂が流れ落ちるような声で、ナツメは即答した。
タイヤが河原の石で出来た床を擦る音が、相変わらず響いている。
「貰ったら、もうそれまででしょ。でも借りるだったら、借りた相手が輝けなくなった時に返せると思わない?」
ニコリと満天の星空を背に、ナツメはどの星にも劣らない笑顔を浮かべていた。
「私は君から力を借りているから、今こうして輝けるの。だから、君が輝けなくなった時は、私が借りた分を全て返すつもりでいるよ」
「きっと、君なしじゃ輝けないかもしれない」と寂しそうに呟くナツメが、とても愛しく感じられる。
思わずしゃがみ込んで、ナツメを抱き締めた。ナツメは、びっくりした表情を浮かべていたが、特に抵抗せず受け入れていた。
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