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「そんなことない。そんなことないよ」
いくら否定しても、ナツメは首を横に振るだけだった。表情は、とても淋しげだ。
それが悲しくて、思い付く限りの言葉を並べて否定しようと思ったが、僕のすっからかんな頭ではこれ以上の否定の言葉が見つからなかった。
出来ることといったら、ただ抱き締めるだけ。
そんな自分なんか、ぶん殴ってしまいたい。
「私は星が羨ましい。自分の力で最期まで輝き続けるから」
『私はねぇ、星になるの』
それが口癖だった彼女は半年後、言葉通りになった。
辛くて長かった闘病生活だったが、この時は穏やかな最期だった。
癌に苦しめられ、自分の力で歩くこともままならなくなっていたナツメは、せめて最後に天体観測をしたいと言い出した。
そんな彼女の望みを叶えたいと思った僕は病院を説得し、僕は彼女を幼い頃から馴染みのある河原に連れてきた。
その時の、彼女の目に映った星はどんな色をしていただろうか。
彼女は──ナツメは、他の誰よりも輝いていた。
むしろ僕が、ナツメから力を借りていたんだ。ナツメという名の太陽の光を受けて輝く月のようだった。
そして、借りたものを返そうと思った頃には、彼女はいなくなっていた。
何でだよ。
何でいなくなるんだよ。
借りていた相手がいなくなったから、僕は周りの輝きに押し潰される存在になってしまった。
まだ返してねぇぞ。
借りたまんまなんだよ。
君なしじゃ輝けないのは、僕の方だったんだ。
「──…っつう」
夜空がぼやけて見える。夜明けが近くなり、星の輝きが見えなくなってきたということもあるのだろう。
だが、それよりも僕の頬を次々と流れる涙のせいでもあるのかもしれない。
それから、僕は薄暗い闇の中で人知れず泣いた。
泣いたのは、ナツメが息を引き取った時以来だった気がする。
声を出すこともなく、ただしゃくり上げながら静かに泣いていた。泣きながら口に含んだ、冷めたコーヒーは苦みの中にしょっぱさも加わっていた。
ナツメ、君はきっと死んだ後も輝き続けているのだろうね。
ナツメという名の太陽を失った月は、これからも人知れず生きていく。
いつか…いつか、太陽と再会できたら良いな――。
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