1人が本棚に入れています
本棚に追加
みーんみーんみーんみーん…
木の幹にとまっている蝉がけたたましく鳴き続ける。
これから、まだまだ暑くなるというのに元気なものだ。
みーんみーんみーんみーんみーんみーんみーんみーんみーんみーんみーんみーんみーんみーんみーんみーんみーんみーん…
「だあぁぁぁぁっしゃらぁぁぁぁぁ!!ふざけんなごるぁぁ!!!!」
クーラーという高価なものなんてあるはずのない部屋の畳の上で、団扇を片手に奇声を上げる。
それもそのはず、1人暮らしを始めた頃から世話になっていた扇風機がつい先日、ご臨終を迎えたのだ。
扇風機の生ぬるい風のお陰で何とか暑さを乗り越えてきたが、それも昨日までの話。
頼りがいのない団扇、じめじめした部屋、終始鳴り続ける蝉。
幼虫のうちは土の中に何年もいるが、成虫になると外に出ることができると言われているのが蝉。その代償が1週間の命なのだが。
「そんなに鳴いていないで、とっとと子作りでも始めろっつーの」
ますます不機嫌になりながらも、駄目元で冷凍庫から氷を取り出して口に含む。
うだるような暑い日は、氷を噛み砕くのが良い。
ひやりとした冷たさが身体の内側から込み上げてくるのだから、熱中症対策にもなる。
塩も欲しいところだが、取り出すのが面倒なので諦めた。
「あ…っと、そういやペットボトルの水を凍らせたやつがあったな」
昨夜に準備しておいていたものの存在を思い出し、早速身体に当てるために取り出そうとした時だった。
冷凍庫の扉に手をかけた瞬間にピン…ポーンという、何とも間抜けな音が玄関の方から聞こえてきた。
こんなクソ暑い時に、誰だよこんにゃろう。
「へいへーい…」
ドス黒いオーラを放ちながらボロいドアを開けると、右手に長い棒を装備した短パン小僧が立っていた。
これは俺の直感だが、何か面倒な人が来た気がする。
最初のコメントを投稿しよう!