蝉のいる季節

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 みーんみーんみーんみーん…  木の幹にとまっている蝉がけたたましく鳴き続ける。  これから、まだまだ暑くなるというのに元気なものだ。  みーんみーんみーんみーんみーんみーんみーんみーんみーんみーんみーんみーんみーんみーんみーんみーんみーんみーん… 「だあぁぁぁぁっしゃらぁぁぁぁぁ!!ふざけんなごるぁぁ!!!!」  クーラーという高価なものなんてあるはずのない部屋の畳の上で、団扇を片手に奇声を上げる。  それもそのはず、1人暮らしを始めた頃から世話になっていた扇風機がつい先日、ご臨終を迎えたのだ。  扇風機の生ぬるい風のお陰で何とか暑さを乗り越えてきたが、それも昨日までの話。  頼りがいのない団扇、じめじめした部屋、終始鳴り続ける蝉。  幼虫のうちは土の中に何年もいるが、成虫になると外に出ることができると言われているのが蝉。その代償が1週間の命なのだが。 「そんなに鳴いていないで、とっとと子作りでも始めろっつーの」  ますます不機嫌になりながらも、駄目元で冷凍庫から氷を取り出して口に含む。  うだるような暑い日は、氷を噛み砕くのが良い。  ひやりとした冷たさが身体の内側から込み上げてくるのだから、熱中症対策にもなる。  塩も欲しいところだが、取り出すのが面倒なので諦めた。 「あ…っと、そういやペットボトルの水を凍らせたやつがあったな」  昨夜に準備しておいていたものの存在を思い出し、早速身体に当てるために取り出そうとした時だった。  冷凍庫の扉に手をかけた瞬間にピン…ポーンという、何とも間抜けな音が玄関の方から聞こえてきた。  こんなクソ暑い時に、誰だよこんにゃろう。 「へいへーい…」  ドス黒いオーラを放ちながらボロいドアを開けると、右手に長い棒を装備した短パン小僧が立っていた。  これは俺の直感だが、何か面倒な人が来た気がする。
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