一、はじまりのあの日…

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  「ふぅ……」 虫垂炎で搬送されてきたご老人の緊急手術が無事終了したのだ。 破裂寸前の虫垂炎 ――… 厄介だけど破裂前で良かったと、手術を終えてようやく志桜(しお)は安堵する…… 乳幼児や老人は症状や炎症所見が弱いことが多くて、診断や治療が遅れる原因になる。 「虫垂炎なら、できたら腹腔鏡手術が望ましいんだけど……」 開腹手術よりも腹腔鏡手術の方が傷も小さく治りも早い。 同期の篠塚と話ながら志桜は廊下を歩く…… 「志桜は手先が器用やから。しっかし余所で所見は風邪や言われとって虫垂炎やなんてあの爺ちゃんも災難やな~」 「なんにせよ間に合って良かったけど」 「せやな」 (俊也あんなに可愛い顔してるのに関西弁なんだよね……) 同期の篠塚俊也(しのづかとしや)は大学時代からもう十年来の腐れ縁になる。 男に興味が無い……否、寧ろ嫌いなレベルの志桜にとって唯一普通に接する事ができる異性なのだ。 (このまま嫁の貰い手……というか、鳥肌が立たない相手に出会えなかったら、一生独身か頼んで俊也に貰ってもらうしかないよなぁ……) 頼まなくても篠塚なら喜んで貰ってくれるだろうが…… そこいらへんの機微を志桜は知らない。 「せや、志桜は飯どないするん?」 (飯……?) ハッと時計を見れば、針は既に13時を回っている…… *
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