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「隠ぺいか。杉下右京が黙ってないぞ」
佐伯みのりはTVに向かって独りごち、こたつの上の煎餅に手を伸ばした。
入学から半年も経たぬ内に大学を辞めた。
引きこもりがちのまま夏が終わり秋も過ぎ、19歳の誕生日は気付かぬうちに通り越して冬を迎えていた。
一歩も外へ出ないどころか、家族とすら口を聞かない日も少なくない。
特に何をするでもなくこたつに潜ってぼんやりとTVを眺めるばかりの生活に、両親は諦めたのか見放したのか、もう何も言わなくなっていた。
やけに特番が多いと思っていたが、クリスマスイブなのだとは先ほど気付いたばかりだ。
カレンダーからも時計からも、社会からも切り離された生活を送るみのりには関係のないことだ。
ドラマ相棒、2時間スペシャルの再放送を見ている時に、その速報テロップは流れた。
だからドラマになぞらえた独り言が漏れたが、みのりにとってはそのニュースも、どうでも良い他人事にすぎなかった。
どこぞの誰かが死んだらしい。
みのりの脳はそれだけを認識した。
ちらりと流れた地名は近所だったが、故人は名も知らぬ赤の他人だ。
むしろ死亡を伝えるテロップの後に流れた文字の方が、僅かながら彼女の興味を引いた。
『遺族の強い希望により死因は公表されておりません』
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