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四角い缶は、海外――恐らくはオーストラリアの、菓子の空き缶のようだった。 ポップで可愛らしくはあるが、原色使いが多く少々派手なデザインだ。 もしもこれがもっと落ち着いた箱であったなら、祭壇の下に隠されていても何も違和感を覚えなかったかもしれない。 香典だとか葬儀関係の書類でも一時的に保管しているのだろうと思って納得しただろう。 この家のインテリアはどこも柔らかく落ち着いた雰囲気に統一されていて、イメージがかけ離れる。 家人が好んでこの缶を取っておいたとはどうにも考えられなかった。 この缶の持ち主はもしかすると、オーストラリアの『ホストファミリー』なのかもしれなかった。 見るのが怖いという玲奈の気持ちも分かる。 みのりは彼女の代わりにひとつひとつ缶の中身を確認して教えた。 「ノートと、手帳……日記かな。あと、手紙が何通か。ノートなんか、すごい古いよ」 他人の手帳や手紙を覗くのには少々抵抗がある。 だからみのりが最初に開いたのはノートだった。 古いとすぐに分かったのは紙の変色具合からだが、変わり映えの無い普通のキャンパスノートとはっきりは言い切れない程度に、デザインにも少々時代を感じるものがあった。 開けてみれば、そのノートの出だしが『Dear』なのだ。 ノートに手紙を綴るなどあまり聞いたことがないが、と首を捻りながら、まじまじと中身を読むのも気が引けてパラパラとページを捲った。
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