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顔を上げると、ばちっと目が合った。
「お、お邪魔してます……」
みのりに倣い、亮も慌てて会釈する。
自分でも気付かぬ内に余程焦っていたようで、ここが喪中の家で、相手が喪主であるということは言ってしまってから思い出した。
お悔みを言った方が良かったのでは、とすぐに気が付いたが後の祭りだった。
玲奈の母親は、にこりと柔らかく微笑んだ。
「いらっしゃい。せっかく来てくれたのに何にもお構いできなくてごめんなさいね。お線香、ありがとう」
「いやっ、あの……!」
もう気付かれていることを確信した。
怒ってはいないようだった。
玲奈の母親の視線はしっかりと亮のクッションを捉えていて、むしろ困ったように苦笑している。
「すみません、勝手に……!」
「お母さん、私が頼んだの!」
玲奈が慌てて庇いに入ると、母親はくすくすと小さな声を出して笑った。
「大丈夫よ、別に怒ってるわけじゃないから」
それを聞き、ほうっと3人揃って息を吐いた。
亮は気まずそうに、クッションの下から缶を出して部屋の中央に押し出す。
「少しだけ、お邪魔してもいいかしら」
と母親が部屋の中へ入ってきて、缶を中心に囲むようにして、4人がひとつの輪になった。
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