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「ごめんなさい、勝手に。あの、わざとじゃなくて……ドーナツを差し上げようとした時に、たまたま布に手が触れて台の下が見えてしまって」
家探しのようなことをしたと思われるのだけは嫌で説明を試みたが、自分でも見苦しい言い訳としか思えず、声は尻すぼみに小さくなっていく。
家の雰囲気にそぐわないやたらと派手な缶だったから余計目についたのだ、もしそうじゃなければ勿論開けるつもりなどなかった。
本当はそこまで伝えたかったはずだが、途中で恥ずかしくなって中途半端なまま口を噤んだ。
「ドーナツ……?」
と、さして重要ではない部分を拾い上げて玲奈の母親は首を傾げる。
「玲奈が好きだから。げ、元気になればと思って……」
「まあ。それを仏前にも?」
「すみません」
これ以上、自分に話を振って欲しくなかった。
もう嫌だ、と、みのりは全て放置してこのまま逃げ出したい気分に駆られていた。
ドーナツを持参したのもそれを仏前にあげようと言ったのも自分だ。
玲奈を元気づけることだけ考えていた。
こんな時なのに、こんな時だからこそ、自分に出来る方法で彼女を笑わせなくてはならないと思っていた。
だがそれは、対玲奈の関係が土台にあるから許されることで、一方では不謹慎で非常識なやり方なのかもしれないという思いもどこかにあった。
本音を言えば、玲奈がそのやり方を受け入れてくれるかどうかすら不安だったのだ。
きっとドーナツも死者にあげるものではなかった、あげ方もいけなかったし、そもそもあげてはいけなかった。
きっと自分で思っていた以上に、二重にも三重にも無礼を働いたのだ。
みのりは自分を責め、後悔した。
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