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「お父さんが苦手そうな一番甘ったるいヤツをね」 「――えっ!?」 ずっと黙っていた玲奈が不意に放った言葉が信じられず、思わず聞き返していた。 『二番目に好きなヤツにする』と指定したのは玲奈だ。 みのりは何の疑いも持たず、彼女が二番目に好きなドーナツを手に取った。 クッキークランチは確かに数ある種類の中でも甘い部類だが、そんな意図があったなんて微塵も気付かなかった。 ドーナツを買う際に確かに故人は甘いものは好まなかったのではないかと考えもしたが、玲奈がわざと苦手なものを選んでいたなんて。 はっとして口を押さえ、恐る恐る玲奈の母親の顔色を窺うと、驚くべきことが起きた。 彼女はまさにその時、堪えきれなくなった笑いを解放したところだった。 「あははは! さすがね玲奈。隠し事をした罰ね。お父さん、今頃胸焼けで顔しかめてるわよ」 玲奈はさすがに、まだ母親と一緒になって声をあげて笑うことはしなかった。 けれど、どこか満足したような表情で顎を突き出している。 さっきまで俯いていた玲奈とは別人のようだった。 みのりはただおろおろとするばかりだ。 何故声をあげて笑えるのか、理解しがたかった。 あの、と、居たたまれなくて横から口を挟む。 「すみません、お父さんが甘いもの苦手だったとは……」 「いいのよ。ありがとう、あなたのおかげよ」 謝罪は途中で遮られた。 何が自分のおかげなのかはさっぱり分からないが、咎められているわけではない、というのだけは相手の柔らかい表情から読み取ることが出来た。
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