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「玲奈」 と、母親が呼びかける。 呼ばれた玲奈は、覚悟を決めたように喉をごくりと鳴らした。 「ここにあるのは、あなたが知らない、あなたのお父さんの人生の半分よ。全部読んで――、自分の目で確かめて、自分で納得しなさい」 玲奈は視線を自分の膝頭あたりに落とし、それから並べられたノートや手紙を見つめ、もう一度母の目をしっかりと見返した。 「私が欲しい答えが、この中にあるのかしら」 「――どうだろう。知りたくないこともあるかもしれない。でもひとつだけ、これだけは信じて欲しい。……お父さんは私たちを裏切ってはいない。あの人はいつだって良い父親で、良い夫だったわ」 母子がじっと視線を交わすのを、みのりと亮は黙って待った。 緊張した沈黙は一瞬で、決意を込めて玲奈が頷くと、母親はほっと肩の力を抜く。 「本当のことを言うとね、あなたの耳には入れたくなかったの。お父さんが亡くなった時、一緒にいた人のことを。知ったら傷付くかもしれないと思って……それなら、知らなくても良い事だから」 でも、と言った時、母親の穏やかな笑みには少しだけ、苦悶と自嘲が滲んだ。 「まさかあんな形で、表に出てしまうなんて。こんなことなら初めから隠さなければ良かった。余計に傷付けることになって……本当にごめんなさい」 玲奈は返事をしなかった。 見守っていたみのりと亮に後を任せ、母親は静かに部屋を出て行った。
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