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愛していた。 或いは、それ以上深い愛の示し方などないと思い込んでいた。 行為は初めてだったが、必要最低限の知識くらいはある。 事前に手に入れてあった避妊具を制服のズボンのポケットに隠し持っていた。 いよいよという時になって男がそれを取り出し袋を破こうとすると、女はその手を掴んで首を横に振った。 「そのまま……」 意図するところを、汲み取れないほど野暮ではない。 最初で最後の情事だからこそ、より深く、薄い壁1枚の隔たりもなく繋がりたい。 その気持ちが互いにある。 「けど、もしも――」 その先の言葉を、男は飲み込んだ。 そうじゃない。 直接繋がりたい、それだけが希望ではない。 避妊をする理由が、妊娠を避ける理由が彼らにはなかった。 或いは賭けだった。 もしこのたった一度で彼女が妊娠するようなことがあったら、それこそ2人が運命の相手である証明のような気すらしていた。 今は抗えない、遠く離れ離れにならねばならない国籍の壁も、引き留めること、追いかけることも出来ない未熟な無力さも、もしこのたった一度の繋がりで新たな命を迎えることが出来たならば全て越えて行けるのではないか。
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