99人が本棚に入れています
本棚に追加
「もしそうなったら――」
と、彼女の方が言葉を引き継いだ。
「とても、素敵ね……」
望んでいた、互いに。
ここにもし奇跡が起こったら、親も教師も、認めざるを得ないだろうと思った。
この先も一緒にいることが、もしかしたら許されるかもしれない。
どちらの国になるかは分からない。
けれどそこには何の問題もなかった。
もしも全て失っても、それでずっと離れ離れにならずに済むのなら本望だった。
こどもを授かる――それだけが2人に残された小さな希望のように思えた。
その僅かな可能性に縋ることに、躊躇いはない。
幼くて未熟で、けれど真剣で、そしてだからこその素直な思考だった。
愚かだとは思わなかった。
親や友人に気付かれないようにと苦労して手に入れた避妊具は、半分袋が開いただけで用無しになった。
何故こんなものが存在するのか、そっちの方がむしろ不思議に思えた。
愛する人との愛の証明の行為を穢すもののようにすら感じて、男はそれを放り投げた。
「――欲しい」
君が。君の子が。君との未来が。
男が口には出さなかった言葉の先までを、女はしっかりと受け止めて微笑みを返す。
自分も同じだと、その目が語っていた。
最初のコメントを投稿しよう!