波旬の娘

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魑魅魍魎が跋扈する時代、身を守る術を持たぬ者あるいは集団は、人身御供を差し出すことにより命乞いをした。 弱き者たちを脅かし続けた異形のために、何人もの娘たちが犠牲になったのだろう。 錫杖を携えている者は僧か修験者だという常識からか、男は村の救済を頼まれた。 村人は、異形を退治することを生業とする者を頼ったということになる。彼らの行為が吉と出るのか、凶と出るのか。 「娘の親爺が、あんたを倒してくれってさ」 錫杖の男は汚れた槍先を拭うと、塔婆形の部分を抜き取り、元の杖に戻してしまった。 「一度見捨てた娘を、もう一度拾うと申すのか?都合のいい話じゃのう」 戦意を喪失したかのような男の所作は、紅葉を訝しがらせ、言葉は戸惑いを生ませた。 「集団と個人とでは集団の方が強い。特に狭い村のような閉鎖された場では、集団は圧倒的じゃ」 紅葉が奇妙な表情で、縛られた娘を見る。続けて、 「所属する集合体に、子を差し出すよう命令された親は、必ず子を犠牲にする。親であることを放棄して、子を捨てるのじゃ。自分自身の保身のため」 紅葉は、ご立派な持論を勝ち誇ったかのように言い募る。
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