第1章

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  「外へ出るん? 体調は?」  思い出したように聞かれた体調。 「大丈夫」  体調なんて、蒼が来てるなら気にする余裕がない。  むしろ、風邪であることを忘れてしまいそうだってば。 「それより、蒼。なんで男子寮になんか来たの? 連絡くれたら、迎えにだって……」 「ご、ごめんっ」 「いや、そうじゃなくてさ」  謝ってほしいわけじゃない。  でも、口から出たのは責める言葉。  あー、もう。なんで、言葉を選べないんだろ。  情けない。 「寝起きだから、恥ずかしいなって……少し、心の準備がほしかったんだ」 「……ごめん。でも、総司……かっこいいよ? あ、ちょっとここ跳ねとうけど」  繋いだ手と逆の手を伸ばして、優しく僕の髪に彼女の手があたる。  ほんと……そういう小さな行動にも心音が乱れる。  乱される。 「ん、これでバッチリ……じゃなくて! 部屋でゆっくりせんの? なんで、どこ行くん? 体調めっちゃ悪いって聞いたよ?」 「部屋でゆっくり……なんて」  自覚……ある?  男の部屋に一人で来るなんて……何されてもおかしくないのに。  見下ろせば、彼女からはそんな考えは見えなくて。  きっと、いつもみたいな何も考えずの行動なんだろう。 「部屋は、勘弁して下さい。あまり綺麗じゃなくて」  綺麗であっても、自分の部屋に好きな女の子が来て……理性なんて保ってらんないよ。  会うたびに、電話で話すたびに、蒼のことを考えるたびに惹かれて。  無自覚で部屋に来られるのは、拷問以外の何物でもない。  まあ、そう言いつつも手を出さないよう我慢するのが男の努めなんだろうけど……。  
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