第1章

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   握り締めた手を引きながら、どこか暖かいとこへって思っても……風邪で食欲ないし。  急に連れてくとこなんて……適当にカフェに入る? 「そ、総司! どこ行くん?」 「……行きたいところ、ある?」  どこに行けば良いのか、頭が回らない。  寮の近くには、幾つか喫茶店もカフェもあるけど……それで、蒼は楽しめるのかなって思うと言い出せなくて。  行きたいところを聞けば、蒼は少し言いづらそうに顔を背けた。 「その……部屋は入れへんかもしれんって由良からは聞いてたんよ」 「…………?」 「でも、部屋じゃないと……その……アカンねん」  急に、どうしたんだろう?  胸にあてた手は拳を作っている。  更に……よく見れば蒼はロングコートから足が見えてブーツを履いていて。  今日はスカートなのかなって今更ながら思う。 「部屋じゃないとダメ?」  どうして、部屋じゃないと?  僕の風邪を気にして言ってる?  だとすれば、気にしないでほしいんだけどな。 「あの……あんな。あの、私……コート脱げへんねん」 「え……?」  コートを脱げない?  よく分からないことを言われて、更には蒼の顔が赤く染まる。  どういうこと、だろう……? 「だ、だ、だだだだから! コート脱げへんねん!」 「どうして?」  これは、聞かない方が良かったのか……耳まで真っ赤に染めた彼女が涙目で僕を見上げてきた。  そんな目をされたって、意味が分からない。  すごく可愛らしいんだけど、コートを脱げないなんて……。 「あんな、ほんまに、ほんまに恥ずかしいこと言って良い?」 「…………はい」  恥ずかしい……こと? 「コートの下な……な、な……ナー……なー」 「なー……?」 「なー……な、ななナー。 へ、へへ変な格好してんねん、私!」 「変な格好……ですか」  なー……ってなんだろ。  濁された……? 「ちょっと、こっちに……」  真っ赤な顔をしている蒼の手を再び引けば、俯きながらも大人しく足を動かす蒼の……変な格好って。  直ぐに見てみたいのは好奇心。  きっと、変な格好ではないんだろう。  僕だって、髪型がどうとか気にするんだし、今日の彼女は納得できないファッションで来てしまっただけなんだと思う。  そう、思っていた……。    
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