第1章

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   なんで、なんで……今日なんだろ。 「ゴホッ……ゴホッ」  急いで部屋を出て、エレベーターまで少し走れば口から漏れた咳。  それを構わずに、上へと上がってくる階数表示に、蒼が来てるのかと思えば……口をおさえていた手が髪へと伸びる。  手櫛だけど、きっと寝癖もひどいけど……でも、今できることってコレしか……。  会いに来てくれたこと、本当に嬉しいのに……急に来るのは反則じゃない? って気持ちもあって。  せめて。せめて、蒼の前では少しでも格好良く見せたいって背伸びも、これじゃあできやしない。  チーン、と古めかしい音が鳴り、目の前のエレベーターのドアが開く。  その瞬間があまりにも早くて、なんの心の準備も出来ていない状態のまま、開いたドアから長く茶色いウェーブの髪が揺れながら現れた。 「総司!? 風邪大丈夫なん!?」  白のマフラーは、ボリュームがあって。そこに顎を隠すように小さな顔が、桃色の頬が、大きな黒い瞳が……。  ドキドキ、なんて心音じゃない。  久しぶりに見た彼女の姿に、震えた。  可愛いんだ。  目尻の下にあるホクロ。  小さな口から覗く八重歯。  心配そうに眉を足らす表情が……可愛らしい。 「…………っ」  今、顔が赤くなってるかもしれない。  見ただけで、燃えるような熱が……。 「部屋おったら良かったのに。ごめん、気を使わせてもた……やんな? 急に来て、ごめ、ヌワゥ!?」 「蒼……なんで、こんなとこにいるの?」  申し訳なさそうに言う彼女の肩を引いてしまえばスッポリと腕におさまった蒼。  どうして……今日来てしまうんだろう。 「ご、ごごごめん! 出直そか? お見舞いに来たんやけど、連絡くらいすれば良かったやんな?」  上着の冷たさが、外を歩いてきたのを伝えていて。  すぐに部屋に入れてあげたい。  暖まりなよって言いたいのを飲み込む。  出掛けなきゃならないんだって、言わなきゃ……。  だけど、もう少しだけ……このままで。  
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