第1章

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小一時間ほどで書類のまとめが終わり、俺はいま会社近くの居酒屋に来ていた。 児玉がラーメンを食べたいと言うから、よく行く駅の構内にあるラーメン屋さんに行くのかと思いきや、 この居酒屋のメニューにあるミニ醤油ラーメンが食べたいとのことだった。 児玉の考えていることは、いまいち予想が付かない。 「カンパーイ」 「おつかれ」 ビールが入ったコップを軽く合わせた後、それを半分ほど一気に飲み干した。 「くぅ~~~~~~っ、美味い!」 仕事のあとのビールは格別だ。 特に強いわけではないけれど、お酒を飲むのは好きだった。 「あ、展示会に乾杯って言やぁ良かったな」 ふと思い出したように児玉が呟くと、嬉しそうに頬を緩めて俺を見て来る。 「良かったなぁ、早川ちゃん。展示会を開けたら晴れて一人前だぞ。出来る男集団へようこそ」 「うわ、ウッザ」 目を半分据わらせながら睨むと、さらに楽しそうに笑い声をあげやがる。 まだ飲み始めたばかりなのに、もう酔っ払って来てんのか? 児玉はお酒が入るとすぐに上機嫌になる。 けれど、弱いわけじゃなくてどちらかと言うとザルに近い方だから、 延々と上機嫌でお酒を飲み続けることが出来るようだ。 営業職の俺たちにしてみれば、本当に羨ましいスキルだよな。 「まぁまぁ、俺マジで喜んでんだからさ。同期で入社しただろ? お前の頑張りずっと見て来たもん。マジで報われて良かったな」 変わらない笑顔のまま、優しい声色へと微妙に変化させて褒められると、 何だか素直に受け入れてしまうから不思議だ。 「うん。美島さんへの恩返しがやっと出来るよ」 思わず自分も笑顔をこぼしながらそう言うと、また児玉が思い出したように「あ」と口にする。 「あの人を見返すこともやっと出来るってわけだ」 その言葉に、片眉がピクリと吊り上がる。 そうだ。 やっと、見返せる。
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