163人が本棚に入れています
本棚に追加
「遊びじゃない、だっけ?言われた言葉」
懐かしい思い出を思い返すように話す児玉だけど、俺の中ではこれっぽっちも懐かしい過去になんかなっていない。
思い出すだけで今でも怒りがふつふつと湧いてくるし、
出来ることならあのイケてる顔面を、鈍器で思い切り殴り付けてやりたいとも思う。
あ、いや。
それやっちゃったら俺、完全に警察のお世話になっちゃうよね。
目指すは完全犯罪。
……って、違うだろ。
「“ そんなやり方、通用すると思ってんの?遊びじゃねぇんだよ "、だ」
口調を荒くしながら言うと、児玉がまた面白そうに笑う。
「すっげぇよな、須藤さん。そういうことサラリと言っちゃうあたり、心底恐ろしいわ」
言われたの俺じゃなくて良かった~~などと軽く言うものだから、
机の下で思い切りその弁慶を蹴り上げてやった。
「いっ……ってぇな!冗談だろ、冗談!」
確かに須藤さんのこの言葉はムカついた。
入社してまだ数ヶ月目だった俺は、美島さんを口説き落とすことに必死になっていた時期で。
美島さんの気持ちをないがしろにはしたくなかったし、
納得した上で俺に全てを預けて欲しいと願っていたから。
だから、他の人から見れば随分遠回りをしていたように見えたと思う。
そんな中の須藤さんの言葉は、ムカついたけれど仕方ないと言えば仕方なかった。
俺が心底腹が立ったのは、その次の言葉だ。
『職人は駒のひとつだろ?一人にのめり込むな、視野を広く持て』
そう言った須藤さんは、珍しく眉を潜めながら蔑むように俺を見ていた。
職人を駒だと言ったあの言葉も。
須藤さんの、あの時の目も。
俺はきっと、永遠に忘れない。
最初のコメントを投稿しよう!