第1章

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「遊びじゃない、だっけ?言われた言葉」 懐かしい思い出を思い返すように話す児玉だけど、俺の中ではこれっぽっちも懐かしい過去になんかなっていない。 思い出すだけで今でも怒りがふつふつと湧いてくるし、 出来ることならあのイケてる顔面を、鈍器で思い切り殴り付けてやりたいとも思う。 あ、いや。 それやっちゃったら俺、完全に警察のお世話になっちゃうよね。 目指すは完全犯罪。 ……って、違うだろ。 「“ そんなやり方、通用すると思ってんの?遊びじゃねぇんだよ "、だ」 口調を荒くしながら言うと、児玉がまた面白そうに笑う。 「すっげぇよな、須藤さん。そういうことサラリと言っちゃうあたり、心底恐ろしいわ」 言われたの俺じゃなくて良かった~~などと軽く言うものだから、 机の下で思い切りその弁慶を蹴り上げてやった。 「いっ……ってぇな!冗談だろ、冗談!」 確かに須藤さんのこの言葉はムカついた。 入社してまだ数ヶ月目だった俺は、美島さんを口説き落とすことに必死になっていた時期で。 美島さんの気持ちをないがしろにはしたくなかったし、 納得した上で俺に全てを預けて欲しいと願っていたから。 だから、他の人から見れば随分遠回りをしていたように見えたと思う。 そんな中の須藤さんの言葉は、ムカついたけれど仕方ないと言えば仕方なかった。 俺が心底腹が立ったのは、その次の言葉だ。 『職人は駒のひとつだろ?一人にのめり込むな、視野を広く持て』 そう言った須藤さんは、珍しく眉を潜めながら蔑むように俺を見ていた。 職人を駒だと言ったあの言葉も。 須藤さんの、あの時の目も。 俺はきっと、永遠に忘れない。
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