第2章

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美島藤次郎の展示会は、大成功だった。 元々関係のあった会社の重役や、俺が売り込み参加してもらった会社の人達。 そしてウチの会社の上層部の方々。 色んな人物が展示会へ訪れ、そのほとんどの人間から好感触をもらえた。 いきなり当日に契約を交わしてくれた会社も二件あったし、本当に大成功も大成功だ。 そして主要人物達が帰り、残りの一時間俺はゆっくりと会場を見て回っていた。 夢にまで見ていた美島さんの展示会。 それをやっと実現することが出来たのが、今でもまだ少し信じられなくて。 改めて喜びを噛み締めながら、俺の足は休憩場へと歩いて行く。 ここの自販機の横に置かれている長椅子は、実を言うと俺が一番気に入っている作品だった。 座り心地が良くて木目が綺麗で、何と言っても一番美島さんらしいデザインだと思う。 緩くカーブを描いた縁は、小さな子供がぶつかっても危なくないように綺麗に丸く削られていて。 妊娠中の明美さんとこれから生まれて来るお子さんへの愛情が、 この椅子から止め処なく溢れ出ているようだった。 あの椅子に座って、ちょっと一息つこうか、なんて。 思ったのが間違いでした、俺のバカ。 長椅子に腰をかけている須藤さんを発見し、思わず踵を返して来た道を戻りそうになる。 それを寸前の所で思い留まり、軽く挨拶をしてとっとと通り過ぎようと思った。 「お疲れさまです、須藤さん」 ぺこりと頭を下げると、その整った顔が俺の方へ向けられる。 相変わらずイケメン。 すみませんけど、帰ってくれません? 相変わらず内心暴言を吐きながら、顔には笑顔を貼り付ける。 あ。 俺も意外と営業職向いてるじゃん、なんて。 「どうも」 にこりと笑顔を返されさらに上を行く営業スマイルに、俺の小さな自信がポチリと踏み潰されたようだった。
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