第2章

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「本当に見に来てくれたんですね、ありがとうございます」 再び、今度は深めに頭を下げると、須藤さんは自分の隣を掌で軽く叩く。 「座りなよ。休憩しに来たんだろ?」 「いえ。展示会中に休憩だなんてそんな」 思っくそ思ってたけどな。 アンタの隣じゃ休憩にならないです。 にこっと微笑みお断りすると、須藤さんも更ににこりと微笑む。 「まぁそう固いことを言わずに。お客の俺に付き合ってよ」 「…………」 笑顔を保ったまま、眉間にピキリと筋が入りそうだった。 そもそもあんた会社の社員でしょ、お客じゃないでしょーが? そうは思っても、言い返すと絶対にややこしくなりそうなので、無理やりにでも心の中に抑え込んだ。 「じゃあ、失礼します」 出来るだけ距離を開け、椅子に腰をかける。 うん。 やっぱこの椅子、大好きだな。 自然と顔が綻んでしまう俺を、須藤さんが横目で見ていたなんて気付かなかった。 「この椅子、美島さんが作ったんだろ?」 「えっ」 驚いて、思わず真正面から顔を見返してしまう。 嫌悪感は忘れて、驚きに目を丸くしてしまった。 気付いたんだ、須藤さん。 驚いた反面。 不覚にも嬉しいと感じてしまう。 美島さんの作品をよく知っている人じゃなきゃ、これがそうだとは気付かない。 展示会に置いている椅子だから、そうなのかな?という疑問を抱く人はいても、 こんな風にはっきりと言い切った人は、一体今日何人いただろうか。 「……そ、そうです。よく分かりましたね」 驚きでどもってしまう俺を、須藤さんは優しい目で見つめて来る。 「分かるよ。俺だってそれなりに色んな職人の作品を見て来ているからな。 その人の癖や、特徴を見抜くのは結構得意なんだ」 そう言って微笑む須藤さんは、今まで知っていた以上に、もっとイケメンだった。 そうか。 こんな風にまともに喋ったこと。 今までなかったかもしれない。
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