第2章

5/15
前へ
/66ページ
次へ
ちょっと。 ほんのちょっとだけ。 見直しそうになる。 けど。 「それに、美島さんの作品に対する愛情が、この椅子から滲み出ているからな」 ーーーーーーーーー。 一気に胸糞が、悪くなった。 愛情なんて言葉。 あんたが使うんじゃねーよ、なんて。 「美島さんは最高の職人です。あの人と組めて俺は最高の幸せ者だ。 あの人と一緒に頑張って来て、本当に良かったと思っています」 俺の言葉に、須藤さんの目が微かに見開かれる。 驚き? 不快感? どっちだっていい。 「俺は、自分のやり方が間違っているとは思いません。昔も、今も。 展示会を開けたのが、何よりの証拠です」 言ってやった、という思いと。 言っちまった、という思い。 熱が微妙に引くと、言っちまったに考えが傾くのは、致し方ない。 やべぇ。 俺、何言っちゃってんの!? ピクリと微笑むこともなく、真っ直ぐに見て来る須藤さんの視線に耐えきれず、俺は慌ててその場から腰を上げる。 「っお、俺、もう仕事に戻ります。失礼します!」 ガバッと頭を下げると、俺は急ぎ足でその場から離れた。 早川健斗、二十七歳。 とうとう、やらかしてしまいました。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!

163人が本棚に入れています
本棚に追加