第1章

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俺が働いている会社は、都内の駅近くにある十階建てビルの五階、六階にある。 だだっ広い二つのフロアを使い行われている業務は、 職人を中心とし、彼らの作品を色んな会社へ売り込む仲介業だ。 家具が大好きな社長の理念は、まだ名前の売れていない職人を世に出して行くこと。 営業である俺たちは色んな所へ足を運び情報を集め、そして勿論ネットも駆使し、 どこかにダイアモンドの原石のような職人がいないかを常々探し求めている。 そんな中、俺は五年前にここへ入社し、一人の職人をずっと追い続けていた。 美島藤次郎さん。 年は三十半ばで、趣味の範囲で家具作りをずっとして来た人だ。 自営業でカフェを切り盛りする傍ら、店に置かれているテーブルや椅子、カウンターキッチンに扉まで。 全てを美島さんが手掛けていると知ったのは、俺が高校生の頃だった。 初めて付き合った彼女とここのカフェに入り、 何となく店に置かれている家具が気になって仕方がなくて。 使われている木材や、質感や、そのデザインや色合い。 全てに心を惹かれた。 彼女と別れた後も足繁く通い、店長である美島さんと仲良く話す仲になり。 気が付けば、もっと美島さんの作品を見たいと思っていた。 けれど彼は、これを趣味のひとつだと言って笑い、 家具作りを仕事にするなんてこれっぽっちも考えていなかったんだ。 そんな中。 ある一つの考えが、頭の中を占めて仕方がなかった。 こんなに素敵な作品、もっとたくさんの人に見てもらいたい、って。
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