163人が本棚に入れています
本棚に追加
「展示会では、会場のど真ん中に美島さんの作品をズラッと並べます。
あと、会場に来た方々が休憩する場所にも、美島さんの椅子を置きますね。
けれどこれはあえてアピールはしません。気付く人が気付くだけで良いんです」
図案を見る美島さんの目が、キラキラと輝いている。
そんな美島さんを見ることが、今の俺の幸せそのものと言っても過言じゃない。
「すごいなぁ。俺の作った物がこんな風に紹介されるなんて……
明美が聞いたらまたからかわれそうだ」
奥さんのことを思い浮かべる時、美島さんの目にはいつも優しい色が滲んでいた。
心から愛しているのを、俺はもう随分と前から知っている。
俺の理想の夫婦像。
明美さんはかなり勝気な人だから、尻に敷かれるのは目に見えているけれど。
「例えからかわれても、美島さんの作品の一番のファンは明美さんでしょ。
あ、二番は絶対に俺ですからね?そこは譲れません」
俺の言葉に美島さんは小さく笑うと、「そうだね」と嬉しそうにこぼした。
「本当に……君に出会わなかったら、僕の作品はただの趣味で終わっていたよ。
改めて…………ありがとう、早川君」
ありがとう。
この一言が、働く原動力になる。
そして、お礼を言われたその瞬間。
決まっていつも、こう思うんだ。
この仕事が、大好きだって。
最初のコメントを投稿しよう!