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『そういうところは年相応だなぁ~』
衣装替えで向かったスタジオの隅。
いそいそと次の衣装に袖を通していると、聞き慣れた声と共に程良く鍛えられた腕が俺の肩に絡み付いてきた。
やってきたのは、さっきから俺をやきもきさせている張本人。
「そういうところって、どういうところだよ」
『悩み事が仕事にそのまま影響しちゃうところとか』
「…プロ意識が足りないって言いたいのか?」
『いや、お前の場合そのくらいの方が良いよ、からかい甲斐があるってもんだ』
若手俳優で組まれたアイドルグループの一人、咲真。
まさに神出鬼没って言葉を具現化したようなつかみ所のない男である。
最年長者でありながら、グループ一自由な振る舞いで度々マネージャーを泣かせている。
よく言えば柔軟で適応性がある、悪く言えば自由奔放な遊び人。
初顔合わせの時に「自分のことは呼び捨てで呼べ」と言ってグループ内での敬語と「さん」付けを禁止したのもこいつだ。
『お子ちゃまの癖に変に大人びてるからな、お前』
「…咲真に比べたらそりゃお子様かもだけど、俺だって来年には成人するんだぞ」
肩にかけられた腕を払い落とし、衣装の襟を整える。
横目でキッと睨めば、咲真は面白そうに笑って俺の頭をぐしゃぐしゃと掻くようにして撫でた。
「やめろよ、まだ撮影残ってんだから」
『無造作ヘア~お前はちょっとだらしなくしてるくらいが良いさ』
「…あのさ」
『ん?』
咲真を見ていると、悪びれないとはこういうことか、といつも思う。
ガーッと掻き回すだけ掻き回して、自分は飄々と姿を消すのだ。
(さっきだって俺の心を掻き乱しておいて、余裕綽々のこの表情…)
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