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「俺、マサキとはいつも本気で向き合ってるから」
咲真はただれてるって言ったけど、俺はいつも本気でマサキと向き合っている。
こういう職に就いて大学も行かず、毎日毎日撮影、撮影…。
俺の外見や肩書き、置かれた立場を見て言い寄ってくる子だっているけど、マサキはそうじゃなかったから好きになった。
中学の時の友達の、友達。
高校もろくに通えなかった俺にできた貴重な同い年の仲間のうちの一人だった。
「今まで喧嘩もたくさんして何度も別れたけど、どうでもよくて別れたこととか一回もないし、より戻したのも何となくとかじゃなくて、本当に好きだからまた付き合っただけだよ」
マサキに好意を抱くのに時間はかからなかった。
周りには同業の女の子たち、もしくはちょっと派手な自分に自信がある女の子たちが多かったからある意味新鮮ですぐに気になる対象になった。
でも他に関係のある子がいたから、その子を切ってまでマサキと付き合おうとその時の俺は思っていなかったんだけど…。
…まぁ、マサキとの馴れ初めはまたの機会に話すとして…。
『酒もタバコもまだの未成年がいっちょまえに~』
でも、俺お前のそういうところ嫌いじゃないよ。
咲真から返ってきたのは思っていたのとは違う反応だった。
へらりと笑う顔に、またからかわれるんじゃないかと思ったけど聞こえてきた声色は真面目なもので、…ポンポンと頭を撫でられた感触が妙にリアルで驚いた。
『ま、程々に頑張れよ~』
「あっ、おい!咲真!」
「あいつ…次撮影だから来てたんじゃねーのかよ…」
片手をひらりと揺らしながら去っていく後ろ姿。
よくよく考えてみれば、俺は自分のことをよく話すけど咲真からプライベートな話なんてほとんど聞いたことがない。
もしかするとテレビを観ていない分、俺はお茶の間より咲真のことを知らないかもしれない。
知っているのはいつも変わらないコロンの香りと、飄々とした態度。
あと俺を見てたまにする…懐かしむような表情だけ。
「俊也くん、スタンバイお願いしまーす」
「はーい、すぐ行きます!」
かけられた声に返事をして、咲真が去っていった方向から踵を返す。
新しい衣装に身を包みライトの中へ戻っていけば、航也が一言「遅い」とぶっきらぼうにつぶやいたけど、その顔は怒ったものではなく、俺を見た目はあたたかく口角はキュッと上がっていた。
おわり
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