第1章

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自分でも驚くほど冷静だった。 過呼吸になるほどパニックになったはずなのに、冬馬の心配とは他所にひとかけらの動揺も見せなかった。 それが冬馬にとっては怖くて、何度も何度も大丈夫かと尋ねられた。 その度にサキは首を縦に振ったが、冬馬の顔が晴れることはなかった。 一つ、気になったことといえば、自分の気持ちは落ち着いたはずなのに声が出ないことだった。 口をパクパクさせて必死に冬馬に伝えるが、 また心配と困惑の入り混じった顔で首をふるばかりだった。 声が出ないことは分からなかったものの、冬馬に感謝を伝えたくて また口を開けようとして、気づいたことがあった。 そうだ。声に出せなくても私にはテレパシーが使える。 急いで口パクで『お・お・か・み』と伝えると、冬馬は一瞬複雑そうな顔をして、 すぐに真顔になり首をまた横にふった。 え?なんで? …やっぱり気をつかわせている、よな… でも腕も使えないから、筆談もムリがある。 悩みに悩んだ結果、サキは目を閉じ、また口を動かした。 それらを不思議そうに見つめる冬馬の視線を感じながら、サキは全神経を集中させた。 ゆっくりと右腕を持ち上げようとすると、あわてて冬馬がその腕を支えた。 しばらくの沈黙の後、サキの右手の甲にまばゆい光がほとばしった。
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