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「そなたがかぐや姫の育ての親であるか。」
「さかつきのみやつこと申します。帝がこのようなむさ苦しい場所にお出でなさるなど、もはや恐れ多きことにて・・。」
帝は都中で噂のかぐや姫に会おうと宮中から漆黒の闇を抜けて忍んでこられたのでした。
「翁よ。早速、姫をここへ連れてこよ。」
帝に付き添ってきたのは、先日、かぐや姫に求婚し手ひどくはねつけられた貴公子5人衆のひとり車持皇子でありました。
「わが都、随一の力を誇るそなたが撥ね付けられたとあっては一目会わずにはおられまい。」
「わが力など帝のご威光に比べれば、象と蟻のようなものでございます。」
「余が蟻で象がそなたということだな。」
「お戯れを。」
車持皇子は帝の母方の縁戚であり、今や宮中を支配するふじのおおはらの一族の嫡男でありました。
ふじのおおはらの一族の権勢は凄まじく、帝は彼らなしでは政治を行なうことができなかったのです。
ふじのおおはらの野望はとどまることを知らず、帝に対しても対等いやそれ以上の態度をとることもままありました。
その不遜極まりないふじのおおはらの一族の中で
車持皇子のみはそういったこともなく帝と接しており、帝も車持皇子には御心と許されているようでありました。
「帝。まことに恐れ多きことながら姫は今宵、身体がすぐれず帝の御前に出ることはかなわぬと・・」
翁は額を床にこすりつけて震える声で言いました。
「翁!!帝に対して無礼ではないか!!つべこべ言わず姫を連れてまいれ!!」
「もうしわけございませぬ。姫がどうしても・・」
「ええい!!なにをたわけたことを!!帝がわざわざ忍んで参られているのだぞ!!ぐずぐずせずに姫をひっぱりだして参れ!」
車持皇子は翁の胸ぐらをつかんで、むりやり引き起こしました。
神経質な車持皇子の額には血管が浮きあがり、怒りでその美しい唇が震えています。
「も、もうしわけございせぬ。。ど、どうか、ご容赦を・・ひ、日をあ、あらためて・・。」
「まだ言うか・・!」
車持皇子は思い切り翁を突き飛ばしました。
「わわ!!」
翁は仰向けに倒れ、強かに頭を打ちました。
「どうしても呼ばぬというか!!」
その翁を車持皇子は何度も何度も蹴りました。
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