第1章

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繭子は迷っていた。 となりを歩く千鶴の、手袋をはめたその左手を握るかどうかを。 (二泊三日のお泊まり道具が入ったキャリーケースはロッカーに預けてきたし、今年最強クラスの寒波が来てるらしいし、12月中旬だから、そこら中でクリスマスソングが流れてる。 人前でベタベタするのは好きじゃないっていう千鶴だけど、こんな日は許してくれてもいいんじゃない?) 今ならいけるかも、と思う繭子だが、あと一歩の勇気が出ない。 めずらしく口数の少ない繭子に、千鶴は少し身をかがめて顔をのぞきこんだ。 「どうかした?疲れてる?」 千鶴は地元から出てきてもう10年以上経っているのに、いまだにイントネーションの端々に故郷の訛りが混ざる。 170センチ以上あるすらりとした体型と、長年の百貨店勤務で身に付いた洗練された雰囲気に似合わない千鶴のその訛りが、繭子は大好きだった。 ますます手を繋ぎたくなる。 「疲れてないよ。別に座ってただけだ……し……ちょっと、なんですか?」
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